2012年6月21日木曜日

■泉佐野市「風俗店には売らぬ」 ネーミングライツの行方は


泉佐野市「風俗店には売らぬ」 ネーミングライツの行方は
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/politics/localpolicy/560150/
2012/05/05 14:14更新

 「市の名前に子供の教育にふさわしくない名前が付いたらどうするの」「いや、市の困窮を全国に知ってもらえた」-。財政難の大阪府泉佐野市が今年3月、市の名称を企業名や商品名に変更するネーミングライツ(命名権)売却を検討していることが判明し、議論が巻き起こっている。前代未聞の検討内容に、市民のみならず、各方面から賛否の声が寄せられる一方、改めて市の存在に注目した企業から共同ビジネスの提案が持ちかけられるなど、思わぬ余波も起きている。

 ■きっかけは収入確保

 関西国際空港の対岸に位置する泉佐野市は、平成6年の関空開港に合わせた大規模開発と、バブル崩壊、関空の利用者低迷による税収の落ち込みで財政が悪化。21年度には、財政破綻一歩手前とされる早期健全化団体に指定されている。

 そこで、昨年4月に就任した千代松大(ひろ)耕(やす)市長は、税収以外の新たな歳入確保を目指し、市の名称に企業名や商品名をつける代わりに広告料を受け取る命名権の売却構想を打ち出した。

 具体的には、市が所有する有形・無形の資産を広告媒体に、活用策を提案する企業を6~11月末まで募集し、その際の提案の参考例として、市の名称の命名権の売却▽職員が企業名の入った制服を着用▽市の名前や市庁舎、市道などに愛称を付ける-などを企業側に示す方針だ。


 しかし、市の名称変更には、知事の同意と関連条例案の市議会の可決が必要になる。市側が初めて議員に命名権売却検討の説明を行った3月の市議会全員協議会では、厳しい反論が相次いだ。

 「泉佐野の恥、(条例案に)絶対に賛成しない」

 「市民をひっぱりまわす発想がおかしい。全国から『(泉佐野市には)どこに理念があるのか』といわれる」

 「企業が金を出せば何をやってもいいという風潮に歯止めをかけないといけない」

 全18議員の大半が市名の変更に抵抗感を示し、「斬新な発想。そんなに市の財政が苦しいと初めて知ったという市民もいる」と、評価する意見は少数派だった。

 また、川端達夫総務相も報道を受け、「市名は安定的に同一の名称が用いられることが望ましい」と苦言を呈した。一方で、大阪市の橋下徹市長は「ものすごい広告価値になる」と評価するなど、賛否が広がっている。

 ■購入企業はあるか

 市によると、6月の提案企業募集開始に向け、現在は募集要領作成のつめの作業を行っている段階で、5月末にも要領をまとめる方針だ。当初、1~5年としていた契約期間を、もう少し長期的にできないかなどの検討を行っているという。

 企業の応募資格として、風営法で規制される企業でない▽代表者等が暴力団の構成員等でない▽民事再生法または会社更生法による再建中でない-などを掲げる予定だ。

 また、規制される広告内容としては、風俗営業▽政治・宗教活動▽ギャンブルその他投機心、射幸心をそそるもの-などを挙げるという。

 市の担当者は、応募企業に対し、これらの資格に反していないとする誓約書の提出を求める方針といい、「行政として、パチンコ店や風俗、暴力団関係の企業と組むことは絶対に認められない。青少年に悪影響を与えかねない名称は市民の理解を得られない」と断言する。申請に虚偽がないか、捜査当局などに企業実体の照会を行うことも検討しているという。

 市によると、現時点で市名称の命名権取得を打診してきた企業はない。しかし、サッカーのプロリーグJ1への昇格を目指すチームから「泉佐野市にスタジアムはないか。一緒に泉州を盛り上げたい」と打診があったり、中部地方の企業から「関空を利用する外国人旅行者向けに、土産物を販売する事業を共同で始めないか」と売り込みがあったりと、「予想外の注目を集めている」(市担当者)という。

 また、東京のある企業からは「命名権の購入は入札か」という問い合わせがあったが、市は「お金の多寡ではない。あくまで話し合いの中で決める」と答えたといい、11月末の応募期間終了後、選定委員会を立ち上げるなどしてパートナーとなる企業を決定するとしている。

 ■どれだけ収入増?

 民間調査会社の帝国データバンクによると、平成14年から22年6月末までに公共施設の命名権を取得した企業は累計99社ある。

 命名権の料金(年額)のトップは、Jリーグの横浜F・マリノスのホームグラウンド「日産スタジアム」(横浜国際総合競技場)などに4億7千万円を払った日産がトップ。プロ野球・広島カープのホームグラウンド「MAZDA Zoom-Zoom スタジアム広島」(新広島市民球場)にマツダが3億円、Jリーグ・FC東京のホームグラウンド「味の素スタジアム」(東京スタジアム、東京)に味の素が2億4千万円の順となっている。

 泉佐野市も、億を超えるような契約料を手にすることができるのか。命名権事業を手がける「ベイキューブシー」(千葉市)は「泉佐野市のケースは施設ではなく、市の名前の命名権ということなので、前例がない。手をあげる企業があったとしても、どれくらいの金額になるか想像がつかない」という。

 ただ、同社の担当者は、企業の命名権の取得目的については、広告宣伝以外に地域貢献という面があると指摘し、「泉佐野に思い入れのある企業なら、ふるさと納税のような気分で高額の契約料を提示することもあるかもしれません」と分析する。

 千代松市長は「企業とはパートナーとしてどれだけ長期間お付き合いできるか検討する。市の名前がころころ変わって市民に迷惑をかけないことが前提」と条件をあげている。

 しかし、昭和23年の市制施行により、佐野町から泉佐野市となった長い歴史があり、市名に愛着をもつ市民は多い。

 命名権取得に乗り出す企業があったとしても、その後の市民の反発も予想され、曲折がありそうだ。



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