2012年6月21日木曜日

■借金を「関空連絡橋100円」に転嫁する泉佐野市の筋違い


借金を「関空連絡橋100円」に転嫁する泉佐野市の筋違い
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/politics/localpolicy/557758/
2012/04/21 19:24更新

 たかが100円、されど100円-。財政難の大阪府泉佐野市は、関西国際空港連絡橋の通行車両に往復100円を課税する利用税を10月にも導入する。年間3億円の増収が見込まれ、市は平成21年の連絡橋の国有化で失った年間8億円の固定資産税の補填(ほてん)として悲願を果たした格好だ。しかし、ただでさえ「遠い、高い」という関空のイメージ払拭に懸命な国土交通省や関空会社には大きなダメージになりかねず、強い不満の声がやまない。市財政の安定化か、関空の活性化か、導入の是非はいかに。

 ■「大きな影響ない」

 「税額は空港利用者や物流業界に大きな影響を及ぼすものではないと思う」

 川端達夫総務相が利用税の新設に同意した4月11日、泉佐野市の千代松大耕(ひろやす)市長は市役所で会見し、利用者への影響を懸念する質問にこう反論、強気の姿勢を示した。

 利用税は、地方自治体が条例で定めれば独自に課税できる法定外税で、昨年9月に市議会で課税条例案を可決し、地方税法に基づき、総務相の同意を求めていた。

 これに対し、国土交通省や関空会社は「関空へのアクセス改善を阻害する」と反対を表明。今年2月には市と国土交通省に対し、総務省の諮問機関「地方財政審議会」の意見聴取が行われたが、両者の意見は平行線のままだった。

 しかし、4月11日に開かれた同審議会が「税額が少額で住民への過度の負担や、通行量に重大なマイナスが生じる物ではない」として、同意が適当とする意見を提出。この判断を受けて、総務相が税新設への同意を決定した。

 千代松市長が会見で「総務相や審議会をはじめとする関係者に感謝したい」と繰り返したのもこのためだ。

 利用税が導入されれば、関空島に車で入る際に利用者が支払う通行料に合わせて徴収される見込み。現在の料金は軽乗用車600円▽普通車800円▽中型車千円▽大型車1300円▽特大車2200円で、この料金に100円が上乗せされる実質値上げとなり、関係者からは反発の声が相次いだ。

 関空会社の福島伸一社長は「関空へのアクセス向上の妨げとなる。大変残念」とコメントを出し、強い不満を表明。運送3500社が加盟する大阪府トラック協会も「少額の往復100円といえども、われわれ業界の負担は決して少額とはいえない。撤回を働きかけたい」と反発した。

 また、関空島内のテナントに勤務する大阪府和泉市の女性(42)も「通勤に車を使うので、確実に負担の増加になりますね」と困惑顔だった。

 ■4年越しの悲願

 そもそも、連絡橋は6年の関空開港に合わせ、関空会社が関空島と対岸の泉佐野市を結び、約1500億円をかけて建設、管理していた。しかし、景気の後退などで関空利用者が思うようには伸びず、建設費などの1兆円を超える有利子負債の返済は関空会社の経営の足かせとなっていった。

 このため、国は関空会社の抱える負債軽減のため、19年に国が連絡橋を買い取る国有化の方針を打ち出した。

 これに反発したのが泉佐野市だった。橋が国有化されれば、関空会社からの年間8億円の固定資産税が失われる。市は関空開港に合わせてインフラ整備や市立病院、文化センターの建設などに約2000億円を投じ、起債した地方債の償還などで財政が逼迫(ひっぱく)しており、年間8億円の減収は大きな痛手となるのは間違いなかった。

 この補填策として浮上したのが連絡橋利用税で、20年8月には往復で150円を課す条例案が市議会で可決された。この時は、国交省が21年2月に、関空2期島の22年中の完成を約束する文書を市に提出し、新たな固定資産税の増収を示したため、21年3月に条例は廃止。同4月に橋は国有化された。

 しかし、22年になっても2期島は完成せず、市は「国は約束違反」として23年9月に再度、利用税100円を課す条例案を提出。市議会で可決されていた。

 これらの経緯があったため、大阪市の橋下徹市長は「関空利用者には大きな負担」としつつも「国が誠意ある対応をしなかったのが元々のきっかけ。自治体の行動としては理がある」と、一定の理解を示した。大阪府の松井一郎知事も「関空にどんどん人が来るようになり、泉佐野市にお金が落ちるようになれば、利用税を必要としなくなると思う。とにかく、関空を日本のハブ空港としてどう発展させるかが問題」と述べる一方、「もともと固定資産税があったわけで、泉佐野市の財政を何とか立て直すためだということを理解しなければならない」との見解を示している。

 ■経営統合への影響は?

 利用税導入で、最も懸念されるのが7月に控える大阪(伊丹)空港との経営統合に水を差さないかという点だ。

 4月には、両空港の運営を行う新関西国際空港会社が設立された。早ければ26年度を目指すという両空港のコンセッション(民間への運営権売却)実現に向け、両空港の事業価値を高めることが急務。利用客増加に向け、矢継ぎ早に関空アクセス向上策を鉄道会社などと協力して打ち出している。

 南海電鉄は近畿日本鉄道、大阪市交通局と共同で、難波駅経由で関西空港から奈良や地下鉄各駅を結ぶ割引乗車券を4月1日に発売した。通常運賃に比べ奈良行きは16%、地下鉄は最大で18%安くなる。

 地下鉄の場合、南海の関西空港-難波間と地下鉄各駅への乗り継ぎ切符がセットで片道980円。なんば-梅田間などの230円区間を利用する場合、通常よりも140円割安となる

 電車の運賃割引は進むが、関空を訪れる手段は、車、電車とバス、神戸空港からの高速船の4つに限られている。

 22年度の連絡橋車両通行台数は、上下線で約670万台。つまり約335万台が関空島と泉佐野市を往復した計算だ。JRと南海の関西空港駅の乗降客数は年間1180万人で、リムジンバスは同約440万人、高速船が同約40万人となっている。

 国交省や大阪府が16~17年にかけて行った連絡橋通行料金引き下げに関する社会実験では、関空へのアクセス方法として、車と鉄道の利用者がともに約4割という検証結果が出た。21年の橋の国有化で、通行料金はそれまでの普通車1500円から800円に引き下げられ、通行台数は増加傾向にある。

 市も車による関空利用者への負担軽減策として、国交省などに通行料金のさらなる引き下げを要請しているが、実現性は不透明だ。

 また、利用税導入後、徴収業務を担当することになる西日本高速道路会社との実務的な協議も必要で、同社の料金徴収システム改修費用なども数千万円単位でかかってくる可能性がある。

 千代松市長は「関空との共存共栄という市のスタンスは大事だが、市民生活を守る方が優先順位が高い」と述べており、市の財政健全化と関空活性化、ひいては関西経済の活性化とは齟齬が出そうだ。



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